アルコールは未だに得意じゃないから
酔っ払ったフリばかりが得意になった
昔から二人称は死んでいたから
今は一人称を殺しにかかっていたところだったんですけど
昔のアルバムの焼き直しをしていたところ
そいつがいつの間にか背後に回って
私の猫背に靴裏を押し付けて
都合のいい時ばかりって
詰っていたんです
画面の前で手が震えている
相対する白紙
背中を押し付けるそいつときたら
薄暗い声で体重をかけてくるから
逃げられないんです
光を直視できなかったツケを
彼等に書こうとするのは
わたしに不親切だよねって
声がするんです
あの頃大事にできなかった私を
今甘やかしているのは
ゆるしてくれないのかしら
(健全なフリばかりが上手くなった+あの頃の記憶は全部前の住所に置いてきた+CDもカセットも劣化してもう聴けなくなった+知らない旅行話をするLINEだって抜けた)はずだった
その筈だった
忘れてよ
忘れてくれよ
目の前の白紙に新しい線を引く
連続した線を引く
それだってわたしの積み重ねたものだと
背後はやさしく言う
そうだよ
そうだよねえ
そうだったんだよ
何もなきゃ何も描けなかったよ
二人称は居なかったけど
わたしもかれらもそこに居たよ
間違ってなかった
間違ったこともあったけれど
間違えてはなかった
大事な誰かを上手く愛せなくても
せめて一人だけ上手い事やさしくしようって
やっと思えた