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詩とかなんか http://po-m.com/forum/myframe.php?hid=9355 自己紹介は最初の記事で。 http://blueberry.7narabe.net/Entry/1/

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2021年9月のノットデッドエンド

夜の声だ、と思った。明るい所で沢山の人を相手に輝かしい顔を見せて喋っていた声が今はこの静かな部屋で自分だけに向けられていた。種類は違えどそれでも引力は自分にだけ向けられている分の威力がある。ベッドの上でぞくりと背筋を震わせる。自分がなくなってしまうように思えた。




少し駄目そうな雰囲気のある人間だと思った。友達から紹介された彼は別世界の人間だとも思った。だけれど紹介された時は柔らかな雰囲気で名刺に書かれた肩書きに首を傾げてしまうようなところがあった。少しどこかの地域の訛りがあって、こちらまで緩んでしまいそうになるのを、いけない、と首を振ると、表向きの顔を取りつくろい、当たり障りのない歓談に励んだ。

数日後に別の連れと自分が出たパーティで見た彼はもらった名刺に違わぬ雰囲気で人に囲まれていた。
「あの人」
「ああ、あの人ね」
目立つのに思わず声を上げてしまい、連れも反応する。にこにこと軽快にビジネストークを語っているようだった。連れが他の知人と喋っている間に、輪に加わり、間を見計らって、こんばんは、と切り出すと、彼はすぐに、ああ、と破顔した。
「この前の出版社のパーティーの時の…お友達でしたっけ」
名前を告げる。
「そうだ、そうだった、…お仕事、ですか」
「まあそんなところですわ」
彼が鑑別するような視線を寄越す。自分は赤いドレスを着ている。パーティとはいえ、スノッブじみた少し浮いた格好の自覚はある。何者かを測るような色のそれ。
「あれ、知り合いなの」
連れがこちらに加わってきた。
「ほら、出版社の友達にこの前紹介してもらったのよ」
「ああ、なるほど。初めまして」
名刺を交換し合うのを自分は居心地悪くもにこにこ顔で見つめた。彼は名刺を一瞥し、連れの肩書きを確かめるように所属先を呟いた。
「あ、そうだ、あなたのお名刺は」
「え」
「ほら、先日会った時はお持ちじゃなかったじゃないですか」
そうだ。友人の紹介で一度会った時は手持ちの名刺がない、と言って断っていたのだった。躊躇していると、連れが売り込みのチャンスじゃん、と下卑た笑みを浮かべて肩を小突く。仕方なしに小さいバッグからカード入れを取り出して、もたもたと名刺を出した。
「……」
やや震えた指先で渡す。下の名前と、店名、連絡先だけの、ふざけた名刺だ。
「…どうも」
先日会った時は事務職と名乗っていた。紹介してくれた学生時代からの友人にもそう言っていた。軽蔑されたろうか。相手の表情が少し薄れたのにそう思った。

美味しい酒が飲める、と思ってやってきたパーティ会場だったけれど、先程の表情を思い出すと途端にシャンパングラスの炭酸が味気なくなった。連れはまた他の人間ともビジネストークに花を咲かせ始め、それにも飽きた。連れに疲れたと伝えて壁の花になることにした。
「お疲れですか」
「…戻らなくていいんですか」
いつの間にか彼が隣に立っていた。視線でパーティの中心を示すと、僕も疲れたので休みます、とその場から動かない。
「本当はこういう場は好きじゃなくて。こないだと違うでしょう、」
「…お互い様ですわ、それは」
「…言わんようにしてたのに。自分で言う」
「やさしい」
「でしょう」
にんまりと彼は笑う。先日会ったオフモードの表情をしていた。上手いな、と思う。自分は上手くできていただろうか。
「これも仕事のうちですからね。でしょう」
貴女も、と言わんばかりに笑みがこちらを向く。返す言葉もなく仕方なく頷けば、はは、と彼は下を向いて笑った。
「…お仕事を頼んでも?」
―ああこの人もそういう人か。望んでいたことなのに。平坦になった心がどこかで冷たく呟いたが、自分はとびきりに綺麗に笑顔を作った。
「勿論」




「憧れていたんですよ」
「それは光栄」
駄目になってしまいそうだしそれをゆるしてしまいそうなところがあった。そしてそれは期待通りだった。この人はとてもやさしい。触れる指先が夢ではないことを教えて、夢を破壊していく。見えないタトゥーが皮膚を焼きつくしていくようだった。涙がこぼれた。理由はわからなかった。

これが終わったら、どこか何か世界の様なものが変わっているんじゃないかという期待を一緒に抱き潰してしまった。



「おしまいは来ないんですね」
「人生がハッピーエンドなんて誰が決めたの」
息苦しく管に繋がれた最期はハッピーエンドと呼べるのだろうか。いくつもを見た。自分はこうはなりたくなかった。
「楽しいまま終わろうなんて虫が良過ぎるよ」
「そうかしら」
「人生はトータル清算なんじゃない」
だったら。
「だったら私はめちゃくちゃ幸せにならないとお釣りが合わないわ」
「そっか」
彼は煙草を一本指に挟んだ。銜えずにこちらに向ける。
「めちゃくちゃ幸せになってから、めちゃくちゃ苦しんで死んでほしいな、蓄積する毒みたいに」
「副流煙みたいに?」
「そういうの気にするんだ」
「しないようにしてるわ、嫌って言っても聞かない人は聞かないから」
「俺のこともそうだと思ってんの」
「そうであってほしい、かしら」
最初に会ったイメージの通りに、どこかいいかげんな人間であってほしかった。それが自分の好意だということに今更気付く。
「我儘ね」
苦手なはずの匂いに嫌悪がひとかけらもないのはそういうことだった。




※去年の9月になんとなしに書いていたssなんですけど現状知った+起こった現実に近いものがあって(私の身に直接的に起きたことではもちろんないのですが)ちょっと上げてみた
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