あの波が凪いだら
また沖に出ようか
まだ揺れる中でその人は笑った
よくわからなかった
この人は何を言ってるんだろう…
何事もなかったように空は雲ひとつなくなり
濡れそぼるか揺らいでいた木々はかさかさと音を立てた
ピーカジー。
巻き上げられた海水が乾いて木々が焼けるのだという。
火の風。
変換を知った頃にはあの人はもう居なかった
きっともう見上げる事もなく
隣に並びたかった頃なのに
いつものように沖に出ていた
大人なのに
知っているくせに
ここのことも
知っていたくせに
逃避のよう
鳥になるにも
蝶になるにも
下手で
笑うことばかり
得意にならないで
平面で
永遠にならないで
滲んだのは
わたしばかり
搾り取られて
何の音も出ぬまま
手を
また
取って
頂戴よ
あの涙流れたら
また起きて出ようか
ベッドの上
知らない明日と日を
向こうに見て
欠伸が出て
わたしは
生を
見えないまま
生きるよ
参考:早坂 暁「この世の景色」より「火の風」
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