イヤホンをつけてゴーグルつけてフードを被ってパーカーのポケットに両手を突っ込んで歩いている半ズボンの男
そいつこそがサイレントジャック
くちゃくちゃとガムを噛んでなんでもないように歩いている男
そいつこそがサイレントジャック
大罪人サイレントジャック
そいつの罪は人々から無音を奪ったことだ
ほら今も道を歩いているだろう
誰も気付かず風景の一部となっているだろう
それこそがあいつの罪サイレントジャック
あるいは眉を顰めるかもしれないが
多くは耳を欹てず無関心のまま
通り過ぎるだろう
それこそが我らの罪サイレントジャック
ほら今通りすがり子供が風船から手を放した。
風船は男の顔の横まで浮いて
男は口元を小汚く鳴らした
風船は少しだけ汚れた吐息に怯んだものの
吐き出されたガムを貼りつけられたものの
そればかりでは気にもとめなかった…
風船は空へ向かった
子供は男の行為に気を取られていたから
ああ、と声を漏らすのを忘れてしまった
ヒーローにはなれないサイレントジャック
子の手を引く親は何も見ていなかった
立ち止まりかけた子の手を引いては
あら、とようやく空を見上げた
その頃にはサイレントジャックの背も
その場から離れていた
あいかわらずイヤホンから音は静かに漏れてはいたし
ガムのなくなった口元をくちゃくちゃとはさせていたが
口の中はしくじりに苦虫の味がするのだった
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